←事務所ページTOPへ戻る
 ←図書館・コラムTOPへ戻る

相続放棄と遺留分放棄の違い

・概要
相続放棄は相続財産を一切受け取らないというもので、遺留分の放棄は遺留分という最低限の取り分を放棄する制度ということは別欄で説明しました(遺留分と遺留分減殺請求 相続放棄の申述方法)。
いずれもつまるところ相続財産を受け取らないという意思であることは同じなのですが、手続きや方法・効力・申立ができる期間など、細かいところで違いがあります。
ただ、それよりも私が考える両者の一番の違いは手続の主体性の違いです。この点を詳しく解説します。

・相続放棄と遺留分放棄の決定的な違い
相続放棄は、相続人となったものが自ら主体的に相続財産を受け取らないという意思を示すもので、これをしないと借金の引継ぎも含めて相続財産を受け取ることになってしまいます(遺産分割協議で他人に財産を引き継がせるなどの例外はありますが)。
なので、相続したくないという人が積極的に申立てを行うものです(相続人が主体)。
他方で遺留分の放棄は、それをしなくとも、自分が後で遺留分減殺請求をしなければ勝手に時効で消滅しますから、わざわざ自分から面倒ごとをかけて家庭裁判所に申立をする必要がないものです。通常はこの制度を利用しようと思いつく人すらいないと思います。なので一般の方は関係がほとんどないのですが、この制度がわざわざあるのは、遺言書で特定の相続人に遺留分を超えて財産を集中させたいがために、生前の被相続人が他の相続人予定者に対し、遺留分を放棄するよう迫るケースです。つまり遺留分放棄制度は、被相続人の強い意向で行われるものになります(被相続人が事実上の主体)。
相続放棄は被相続人の生前にはできないのですが、遺留分放棄は被相続人の生前に行うことができるというのも、こういった理由によるものと思われます。

・理由のある遺留分放棄か検討を
遺留分の放棄については遺留分という最低限の取り分すらわたさないというものですから、ただ単に申し立てをしただけでは相続人にとっては通常大きなペナルティとなります。なので、この手続を選択する場合は、どういった理由から被相続人がこの遺留分放棄を勧めているのかを考える必要があります。例えば、本妻以外にも婚姻外の女性との間で子がいた場合、あとで婚姻外女性の子が遺留分減殺請求を行使して本妻の子達との間で相続関係のトラブルを生じさせないようにするため、生前に金銭を渡したうえで、遺留分放棄を勧めるというケースもあると思います。
なるべく相続が円満に進むようにという考えられたものであれば遺留分放棄も問題はないとは思いますが、手続を行う際はこの点をよく考慮していただければと思います。