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家賃の値上げを求められた時
・概要
様々な理由から賃貸借契約の更新の際などに賃貸人が家賃の増額を賃借人に提案することがあります。
賃借人としては生活費の内に家賃が占める割合がなかなかに大きいと考えられるため、実際に値上げされてしまうと困ってしまう方も多いかと思われます。
このような場合に賃借人の立場から見た対応法についてご紹介します。
・原則 賃借人としては応じる義務はない
法律上は一方的に賃料の改定を行うことはできないものとしており、賃借人としては原則として賃貸人からの家賃の値上げ要求に応じる必要はありません。
値上げに応じなければ契約の更新を認めないと言われて更新手続を拒否されたとしても、法律上は法定更新といって、以前の契約内容と同一条件で当然に賃貸借契約が更新されたものと扱われます(借地借家法26条)。そのため賃貸人は契約の終了を主張して退去を求めることはできません。更新手続がなかった場合は、賃借人としては従前と同じ口座に以前と同一の賃料を振り込み続けていれば、そのまま賃貸借契約を継続することができます。この振込や家賃の手渡しの支払いを拒否された場合、供託という方法で支払うことも可能です。
・例外 賃貸人が法的手続をとりうるケース
上記は原則的な扱いなのですが、賃料についてお互いの合意が成立しないときは、賃貸人は賃料増額の裁判を提起することができますので、この裁判提起が現実的に見込まれるケースでは賃料増額の話し合いに応じたほうがよいケースもあります。
その理由ですが、借地借家法は基本的に双方の合意がなければ賃貸借契約の内容の変更は認められないとする一方で、賃料を改定しなければならない理由がある場合は賃料の増額請求を認めています(借地借家法32条)。改定にあたって参考される事情としては近隣の家賃相場や建物価格の増加などの経済的事情の変動を考慮しますので、実際に借りている住居の家賃が近隣相場から乖離した場合は賃貸人の家賃増額請求が認められる可能性が高くなります。そのため、賃貸借情報サイトなどから周辺の賃料をみたうえで、裁判まで提起される可能性があると感じられる場合は、素直に応じてしまった方が、裁判という面倒ごとに巻き込まれなくて済むようなケースもあります。
・ただし、裁判提起まですることは稀
賃貸人が裁判提起までするかどうかは、賃借人側からすればなかなか判断は難しいのですが、賃料増額請求の裁判が実際に提起されるようなケースは現実的には稀です。その理由は、裁判を提起する場合、弁護士に依頼すれば結構な費用を支払う必要があるほか(弁護士費用は原則として相手方に請求できません)、自分一人の力でなんとか裁判を提起する場合であってもかなりの労力を必要とします。そうやって裁判を提起したとしても、実際に裁判所が賃料の改定を認めるかは微妙であり、訴訟費用と手間をかけてもそんなに得られる利益は多くないため、賃貸人としては結構裁判は及び腰になるケースが大半だと考えられます。
ただ、経済事情の変動で大幅なインフレが進んだり、あるいは、家賃が数十万円~数百万に及ぶような高額物件であれば、訴訟を提起するだけの価値があるとして現実的に裁判提起が選択されるケースも多くなりますので、賃借人として現在の家賃額や周辺の相場などを考慮したうえで、家賃の値上げ請求に対しての対応を検討することになります。
・なお民事調停を選択するケースも
裁判までするとかなりの労力がかかるため、民事調停という話し合いの手続を賃貸人が選択することもあります。この調停はあくまで話し合いの手続ですので、応じなかった場合に判決がでることはありませんから、こちらの申立があった場合は欠席しても問題はありません(なお借地の場合の借地非訟事件は出席の必要があります。詳しくは別欄で解説予定です)。
