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職場でのハラスメントについて

・概要
職場は多数の人間が集うところですが、その中でいじめや嫌がらせが行われることがあり、これについて悪質なものは人格権を侵害するものとして法律上、損害賠償や差止請求の対象になります。
よくある類型としては上司による過度な叱責等のパワーハラスメント、あるいは性的意図を目的とした過度の接触や特に不快性を有する性的な言動を行うセクシュアルハラスメント、ほかにも退職強要を前提とした仕事外しなどの類型があります。
この賠償については、いじめを行った当事者だけではなく、使用者も責任を負うことになります。それは使用者は就業環境配慮義務(労働契約法5条)や安全配慮義務などを負う関係上、ハラスメントを止めなければその責任を懈怠したものとされるからです。

・ハラスメントの問題の難しさについて
とはいえ非常に難しい問題があるのが、ハラスメントを気にするあまり社員同士で業務上必要な指導やコミュニケーションができなくなってしまうことです。特にハラスメントかどうかについては被害者側の主観によってだいぶ印象が変わるものであり、法律上は問題ない場面でもハラスメントを受けたという強い主張をされることで特定の社員の評価が下がるなど逆被害を生じさせてしまう可能性もありえます。
そこで、ハラスメントが法律上、問題となるかどうかの線引きの判断基準について解説します。

・法律上問題になるハラスメントの判断基準
法律上問題になるハラスメントかどうかについては、①業務上の必要性(業務の必要のために行われた言動か)、②違法目的の有無(どのような目的でそのような言動がされたか)、③労働者の被る不利益を総合考慮して決めるものとされています。
これらの事情を総合考慮してケースごとに判定することになるのですが、これだけではわかりにくいと思いますのでハラスメントが認定された裁判例について参考までに下記にいくつかご紹介します。なお、ハラスメントが正式に認定された裁判例は非常に多数ありますが、すべてを掲載することは困難なため、代表的なものを以下列挙します。

ア 上司が「意欲がない、やる気がないなら、会社をやめるべきと思います。」「あなたの給料で業務職が何人雇えると思いますか」などと記載されたメールを送信した事案(東京高判平成17年4月20日)

イ 「ぶち殺そうかお前、調子に乗るなよ、お前」等の暴言を吐いた事案(名古屋高判平成20年1月29日)

ウ 会社の電話に出た原告に対し、「何やその態度、やる気ないんか」「何でそんなに声が小さいんや」「電話はワンコールで出え。ワンコールで出なかったら、何やこの会社って思われるやろう」ときつい口調で叱りつけ、その後、社長室に呼び出し、「何や、お前、その態度」「やる気がないなら帰れ」などと大きな声で怒鳴りつける形で1時間程度説教をし続けた事案(大阪地判平成24年11月29日)

エ 「エイズ検査を受けたほうがいいんじゃない」「処女にみえるけど処女じゃないでしょう。」等の発言をされた事案(東京高判平成20年9月10日)

オ 「おれと付き合ってくれへんか」「お金の面倒も見てやるし、会社でもいいふうにしてやるから、付き合ってくれへんか」と言って交際を迫り、これを断ると、「ほな、あしたから会社に来るな」「俺が首やと言ったら、もうお前は首や」「社長にも電話して言うから」と解雇を持ち出してさらに交際を迫った事案(大阪地判平成24年11月29日)

カ 勤務時間中、「おはよう」、「調子どうや」などといいながら肩、髪、背中を撫でるといった身体的接触を頻繁に続けたほか、部屋で後ろから抱きつき、無理矢理身体を触った事案(平成18年4月27日)

キ 職場外での飲み会において男性が同僚の女性に抱きついたり、ブラウスのボタンを外したり、スカートをめくろうとした事案(大阪地判平成10年12月21日)